雑木林のカット       金光達太郎の「話し方ワンポイントレッスン」[
              
              
  雑木林の音
 
  
           <潟_スキン発行」喜びのタネまき新聞」No.408-平成15年第13号より>
                          
                                          イラスト:西村玲子

<ひとことの余韻>

 「ひとこと」がこころに残って働きつづけることがある。

 その日、私は上野駅から下り列車に乗った。空席を探すと、隅の4人掛けの長椅子に3人の先客が座っていた。真ん中の人に少し詰めて貰えば座ることが出来る。
 私は「おそれいります」と丁寧に会釈した。すると真ん中のかっぷくのいいオッサンが少し太めの腰をゆずりながら、はっきり「どうぞ」といってくれた。

 「おや!」と思った。

 こんな時、おおかたの人は黙ったまま腰をゆずる。 それは、いかにも「しょうがない、まあ、掛けさせてやるか」とボヤいているように見える。 そのため、腰掛けた人は、少々身の縮む思いをしつづける。

 ところが、このオッサンは最初から気持ちよく「どうぞ」といってくれた余韻をのこしてくれたオッサンのだ。このひとことで、私の気持ちは、スーッと楽になった。
そればかりではなかった。このひとことは、腰掛けたあとも繰り返し耳の奥に蘇ってきた。

 おかげで、それから下車するまでの30分、私は安らかな気分でゆったりと座っていることができた。

 私はつくづく思った。

 人に何かをしてあげる時、黙ってしたのでは、相手の身体だけしか楽にならない。ひとこと、はっきり言葉を添えれば、相手の身もこころも楽にすることができる。オッサンは、このことを先刻ご承知だったのであろう。そして、こういう時に、すかさず、「どうぞ」といえるように、常々からこころがけていたに違いない。

 いまどきの人は、みんな自己中心だ、とよくいわれるが、接してみるとこころの底には太古から授かってきた「人を楽にしてあげたい」という優しいこころを持っている人が多い。

 オッサンの「どうぞ」にも優しい余韻があった。

相手の身も心も楽にするひとことが言えるようになったり、感じられるようになれば私たちのコミュニケーションはずいぶんスムースになるのでしょうね。

フィリア WEB 話し方教室へ(金光達太郎師のワンポイントアドバイス)
T.人を好きになることの大切さ U.人間なのだ・・ V.やさしい人・・ W.小さな神様・・ X.オレサマムシ・・
Y.五分の魂 Z.ありがとさん [.ひとことの余韻 \.鳩は利口です ].本当に苦手?
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