雑木林のカット       金光達太郎の「話し方ワンポイントレッスン」U
              
              
  雑木林の音
 
  
           <潟_スキン発行」喜びのタネまき新聞」No.420-平成15年第7号より>
                          
                                          イラスト:西村玲子

「人間なのだ」・・・・・

 私は疲れていた。鈍行列車に乗り込んだが空席はなかった。だが、デッキに近い長い座席に、ひとりの老人がトリスウィスキーの小びんを枕にして眠っていた。

「なんだ、朝から横になって、3人分も占領して、いい気なもんだ。こんな身勝手な奴は人間じゃない」私は、正直なところ最初、老人を憎らしく思った。

 だが待てよ。この人は鬼でも蛇でもない。確かに人間なのだ。人間同志の友達のつもりでお願いしてみよう。私は老人の肩に手を乗せた。

「もしもし、ごめんなさい。かけさせていただけますか」

「ううーっ、ああ、おう、おう、これは失礼しました。どうぞおかけになってください」桃を持っているおじさんのカット
「ありがとうございます。お休みのところ本当にごめんなさい」 

 見ると、その人の手の無数のヒビには土が滲みこんでいた。
「何か、おつくりなんでしょう」「ええ、桃をつくっとります」
話はやがて、その人の子ども時代にまで及んだ
「日本海海戦に勝った時の、村のチョウチン行列の揺れる灯をはっきりと覚えております」「ほーう、お幾つでしたか」

 列車は大きな駅に近づいていた。老人はそこで降りてバスに乗る。私は特急に乗り換える。ふたりは、もう、別れが惜しくなっていた。

「さようなら、美味しい桃ができますように」「楽しゅうございました。どうぞお元気で」
手を振りあうふたりの目には光るものがあった。

 私は考えた。人を見て「人間じゃない」と思うこころには救いがなかった。
それを「人間なのだ」と気づいたら歯車が回りだした。

「人間は・・・・・人間なのだ」

■私たちはつい「こんなヤツ人間じゃない!」と決め付けてコミュニケーションをとろうとせず、お互いの間に溝を作りやすいのですが、前回と同様仲間だ、同じ人間なんだ、と思うところから話し方の第二歩が始まります。

フィリア WEB 話し方教室へ(金光達太郎師のワンポイントアドバイス)
T.人を好きになることの大切さ U.人間なのだ・・ V.やさしい人・・ W.小さな神様・・ X.オレサマムシ・・
Y.五分の魂 Z.ありがとさん [.ひとことの余韻 \.鳩は利口です ].本当に苦手?
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