話を耳に入れてもらうためには、先ず人から好かれていなくてはなりなせん。
嫌われていると、ろくに話も聞いてもらえない。目的を達成する以前の問題です。
「好かれる」といっても、こびたり、へつらったりすることではありません。
周りの人に「あの人嫌い・・」「あの人感じ悪い・・」とバツをつけている人がよく居ますが、皆さんはこういう人を好きになれますか?
先ず自分からは人にバツをつけないで好きになる努力をする、相手に心を開くことが相手から好かれる第一歩ではないでしょうか。
実を言いますと、私も非常に器の小さな人間だと思ったことがあります。
話し方を始めた頃、話し方コンクールに出た時のことです。
前の人の話を聞いていると「うまいなー」と思う。これではこの人が1番で私はうまくいっても2番だ。ところがまたうまい人が出てきて、これでは彼らが1、2番を争うから、私は3番以下だ……とやっていくうちに、10番以下になってしまうのです。
そうなると心のどこかで人が失敗してくれることを望んでいたのでしょうか。自分の番になり皆の前に立ちますと、みなさんの目がいっせいに『あいつ失敗しないかな』と思っているように見えたのです。もうコチコチに上がってしまい、思うことが十分に話せませんでした。
後で審査員の先生から、『金光さん、さっきは肩に力が入っていましたね』と言われ、それからは自分の器量のなさをなんとかしなくてはと思っていました」
みんな仲間なんだ
そんな時、ある建築家の本に
『江戸時代は塀をたてるのに、町の景観を考えて建てていたようです。今は自分の家だけがりっぱに見えるように建てる。昔は竹薮の竹のように地上では一本一本ばらばらでも、根っこは一つという意識が住民のなかにあったのでしょう』と書いてありました。
私はこれだ、と思いましたね。
「人間もみな根は一つにつながっている竹だ」となら思いやすい。
それからはあの人もこの人も根っこのつながっている竹、と思うように努力しました。
するとどんな人も兄弟のように見え、赤の他人という気がしなくなるから不思議ですね。
今まではなんとなく合わなかった人も、髪を染めたあんちゃんも、みな竹、竹、と思っていると気にならなくなる。
私は松戸で乗換るのですが、その電車は夜になると、あちこちに酔っぱらいが寝込んでいる。迷惑そうな顔をしながらも、だれも起こそうとはしない。そこで寝込んでいる人も竹だと思うと、「家でかわいい竹の子が、おとうちゃんの帰りを待っているだろう」
そっちの人、こっちの人と起こしてあげることが出来るのです。
「うーん、ねむい。ありがとう」と言って、みんな降りていきます。
相手に心を開こう
それまでの私は、酔っぱらいは放っておけ、と思っておりました。
酔っぱらっているのが悪い、下手にかかわれば怪我をすることにもなりかねない、そんな気でいたのです。そうやって一年、次の話し方コンクールになり、この話をしようと思いました。
ところが壇上に立つと、みなさんの顔が緑色がかって見えてきました。
思わず「私は今、みどりの竹薮の中でさわやかな風に吹かれているようです」と言ってしまった。
用意してきたことと全く違うことを言い出してしまったけれど、私はその緑の空間で自由に泳いでいるような気分で話ができました。
思いがけず最優秀賞を頂いてしまいましたが、一年前のこちこちの自分とはこんなに違ってきたのです。
人の失敗を思うようなちっぽけな私が、人を自分と同じ竹なんだ、仲間なんだと見る努力をしただけで、自由になれたのです。
相手に心を開くというのは、仲間なんだと思うその気持ちです。そうして前向きにものを考えることは人生を豊かにしていく秘訣だと思います。
■「仲間と思うことができれば、いつでも・どこでも・誰とでも話が出来るでしょ?」と先生はおっしゃいます。話し方の第一歩はここから始まるのでしょう。
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